スペインにほとばしる情熱は文化にも現れ、スペイン建築は「ロマン」を与えてくれます。中世キリスト教建築の荘厳な空間、イスラーム建築の繊細な光と影……
では、現代のスペイン建築家たちは、その豊かな歴史的遺産をどう受け継ぎ、どのような新たな美の哲学を創造しているのでしょうか?
単なる流行のデザインや奇抜な構造で終わらせないのが、スペイン建築の奥深さです
なぜ彼らはこの形を選んだのか?
その深い思索を知ることで、スペイン建築の旅は格段に深まります!
この記事では、現代スペイン建築の巨匠や最前線を牽引する建築家4人を厳選しました
✅過去の建築様式が、現代の建築にどう受け継がれているか
✅作品の構造的な意図と哲学的な背景
✅旅に役立つ実用的な情報(公式HP・アクセスなど)
知的好奇心を満たす解説と、次のスペイン建築の旅に役立つ情報をご紹介します
新たな旅のはじまりに、ぜひ参考にしてください☺
サンティアゴ・カラトラバ (Santiago Calatrava)
1951年生まれ、スペイン・バレンシア出身。構造家としての側面が強い建築家です
作品:芸術科学都市、、アテネオリンピックスポーツコンプレックス、リエージュ=ギユマン駅、ワールド・トレード・センター新駅舎 など
大規模構造建築を専門とし、SF作品の舞台になりそうなむき出しの白い骨格が特徴の作品が多く、自然界から見つけ出したとされる構造は、時に人体のようにも見えます
ネオ・フューチャリズム(新未来主義)と呼ばれる前衛的な運動の代表的な建築家とされ、
成長する都市のデザインの美学と機能性を未来的に再考した構造表現主義的な運動であり、科学・芸術都市はまさにその運動の一環といえます

構造を専門とする建築家としてだけでなく、さらに専門性を高めるため土木工学についても学び、土木技師として多くの橋も設計しています
また、画家や彫刻家としての側面も持ち、建築史に芸術の側面からも名をのこす建築作品を生み出しています。これは、ル・コルビュジェの作品に触れた影響で、芸術と建築を同時に職業とすることが出来ると確信したといいます
芸術科学都市 – Ciutat de les Arts i les Ciències(バレンシア)
カラトラバの生まれたバレンシアに設計された一大都市。1996年7月に建設が始まり、およそ10年の歳月をかけて完成しました。以下の複数施設から形成されており、21世紀の科学都市をイメージしてデザインされています
- レミスフェリック(L’Hemisfèric)
IMAXシアター、プラネタリウム。芸術科学都市の建築物の中で最初に建設された。人間の瞳をモチーフにしている。建築物は半球状となっており、周りを囲むの水面に映し出された建築物の姿と合わせて円(球)に見えるようにつくられている - ソフィア王妃芸術宮殿/パラウ・デ・レス・アルツ(El Palau de les Arts Reina Sofía)
オペラハウス、劇場施設。宇宙船のような外観だが、不規則なタイルが敷き詰められている
カラトラバは、ガウディのトレンカディス(破砕タイルによる装飾)をカタルーニャの伝統と捉えて、そこから着想を得たデザインにしました

- ルンブラク(L’Umbracle)
バレンシア州原産の植物が植えられた散策路。オノ・ヨーコら現代アーティストの彫刻を展示する野外アートギャラリーがあります - 海洋水族館(L’Oceanogràfic)
ヨーロッパ最大級の水族館。この施設のみ建築家フェリックス・キャンデラの設計 - フェリペ王子科学博物館(El Museu de les Ciències Príncipe Felipe)
科学博物館。動物の背骨を思わせる斬新なデザインが、ひときわ目を引きます。コンクリート製の太い柱から、上部に行くに従って柱が枝分かれしていき、アルミニウム製の屋根を支える21アーチと繋がっています
フェリペ王子科学博物館の構造は、樹木が枝分かれするような構造となっている。構造の面においてもガウディの影響が見て取れる

芸術科学都市 – Ciutat de les Arts i les Ciències 公式HP
所在地 Quatre Carreres, 46013 Valencia, Spain 📍MAP
最寄り駅 Alcalde Reig – Museu Faller(バス)
リカルド・ボフィル (Ricardo Bofill):
1939年生まれ2022年没、スペイン・バルセロナ出身。古典的な構造を、現代的な素材や色彩で再構築した建築家です
作品:ラ・ムラジャ・ロハ、Wバルセロナ、バルセロナ=エル・プラット空港、東京銀座資生堂ビル、ラゾーナ川崎プラザ など

ボフィルは建築家一家に生まれ、フランコ独裁政権下における既存のアカデミズム、社会体制に反発し、あらゆる専門家から成る独自のグループを創立しました。これは単なる建築事務所ではなく、建築家、社会学者、哲学者、経済学者、作家、映画監督など分野を超えた専門家が集まるワークショップとして機能した点が最大の特徴です
このグループでの活動により、単なる工学的な作業としての設計ではなく、文化、社会、哲学、経済学といった多角的な視点から建築へのアプローチが可能になりました
ボフィルの建築は、古典主義やゴシック様式の歴史的建築の要素を、現代的なコンクリートや素材と組み合わせるポストモダニズム的な手法が特徴です。特に、ピンク、青、赤など鮮やかな色彩を多用し、巨大な集合住宅や公共空間にロマンティックで演劇的な雰囲気をもたらし、伝統的なモダニズムとは一線を画す大胆な表現主義を確立しました
ラ・ムラジャ・ロハ – La Muralla Roja(アリカンテ)

直訳の「赤い壁」という名前の通り、赤に包まれたポストモダン様式の集合住宅です。1968年設計、1973年に完成しました
アラブ地中海地域の建築、特に北アフリカのアドベの塔とカスバ(カサバ)を参考としています
アドベとは、水を混ぜた粘土と砂、藁か糞などの有機素材によってつくられた耐久性の高い日干し煉瓦です
カスバは、アラビア語で「城塞」「要塞」「塔」などを意味します(カサバ(قصبة, qasaba)の北アフリカ・マグリブ地方の訛りです)
建築史において、イスラームの影響を大きく受けているイベリア半島では、カスバが多く見られました。防御としての要塞のみならず、都市や駐屯地としてのさまざまな機能を持つカスバの包括的な性質をボフィルは再解釈し、タウンスクエア・広場・橋を組み合わせた複合施設として設計しました
スペイン語で「城」を意味するアルカサバは定冠詞al+カサバです。東京ディズニーシーにあるカサバ・フードコートも、このカスバ(カサバ)が由来です
また、十字構造を組み合わせて区画された直線の構造美からはブルータリズム建築の特質が見られます。マーティン・ソルヴェイグ “Do it Right”という楽曲のMV撮影で使用されているのですが、あまりに美しい直線の構造体でCGと見間違うほどです
ラ・ムラジャ・ロハ – La Muralla Roja 公式HP
所在地 Partida Manzanera, 3, A-14, 03710 Calp, Alicante, Spain 📍MAP
⚠内部への立ち入りは宿泊客のみ
ラファエル・モネオ (Rafael Moneo)
1937年生まれ、スペイン・ナバーラ県トゥデラ出身。著名な建築家として活躍しながら、学術面においても重要な役割を果たしています
作品:国立古代ローマ博物館、アトーチャ駅、セビリア空港新ターミナルビル、ムルシア市庁舎、聖母マリア・カテドラル
その土地の歴史的・文化的な背景を重視し、敬意を払いながら設計を行っており、批判的地域主義の建築家として取り上げられています。設計された建築物は、環境と調和し、既存の都市空間に馴染んでいます
これはモネオが、シドニーのオペラハウス設計で有名なデンマークの建築家ヨーン・ウツソンに師事し、北欧建築の影響を受けていることにも関係しています
1996年にプリツカー賞、2003年にRIBAゴールドメダルを受賞しており、建築分野における巨匠と言える存在です
プリツカー賞は、「建築界のノーベル賞」といわれる。近年では、山本理顕氏が受賞している。スペインの受賞は、ラファエル・モネオとRCRアルキテクタスのみ
RIBAゴールドメダルは、1848年に創設された長い歴史を持つ、英国王立建築家協会から授与される権威ある賞。近年では、SANAAが受賞。なんと驚きなのが、受賞としては世界唯一の都市として、スペイン市が1999年に受賞しています!
アトーチャ駅 – Estación de Atocha(マドリード)
1992年、セビリア万博開催にあわせたスペイン初の高速鉄道AVEの導入に伴い、駅舎の拡張が必要となりました。コンペで選ばれたモネオは、旧駅舎を解体せず、新しい機能へと転換し、その横にモダンな新ターミナルを増築するという計画を立てました
地下鉄アトーチャ・レンフェ駅を出ると、左手に近郊線の乗り場があるアトーチャ・セルカニアス駅が見え、さらにその奥に高速鉄道AVEなどの乗り場があるプエルタデ・アトーチャ駅があります
- 歴史的な旧駅舎
鉄骨とガラスの古いドーム型駅舎は、歴史的な駅舎にみられる建築様式です。待合室は熱帯植物が生い茂る温室庭園となっており、約260種、計7,200本もの植物が植えられています。正面には池があり、緑と水の空間で安らぎを得られます - 新ターミナル
新たに増築されたターミナルは、シンプルで抑制された幾何学的な構成が特徴です。控えめな素材と、計算された窓や天窓からの自然光の導入により、巨大な空間でありながらも落ち着きと秩序をもたらしています

大きな熱帯植物がシンボルのアトーチャ駅は、ディズニー映画『ズートピア』に登場する駅のモデルにもなっています
単に鉄道のハブとして機能するだけでなく、多くの人々が利用していた旧駅舎の記憶を保存し、高速鉄道導入という現代の要求にも応える公共空間として再生した模範例として高く評価されています。モネオの哲学が色濃く反映されたプロジェクトとも言えます
アトーチャ駅 – Estación de Atocha
スペイン鉄道近郊線(Renfe)の紹介ページ
所在地 Pl. del Emperador Carlos V, Arganzuela, 28045 MadSpain 📍MAP
フアン・ヘレロス(Juan Herreros)
1958年生まれ、スペインのサン・ロレンソ・デ・エル・エスコリアル出身。1984年から2008年までは同じくスペイン出身の建築家イニャーキ・アバロス(Iñaki Ábalos)と共同活動をしていました
ホセ・イエロ公共図書館、ガロザの家、国立ソフィア王妃芸術センター(MNCARS)、ムンク美術館 など
「建築における新たな実践」に関する研究を中心に行っており、建築家の役割と設計技術の再定義を試みています
建築を社会や環境との対話の道具と捉えており、過剰な装飾や表現よりも、効率性、持続可能性、機能性を重視します。ヘレロスのデザインは、無駄をそぎ落としつつも、素材や光の扱い方によって豊かな空間を生み出しています
ホセ・イエロ公立図書館 – Biblioteca Pública José Hierro(マドリード)
2003年開館、アバロスとの共同設計による7階建て高層ビルの図書館です
入り口となるコンクリートの土台の上に、アルミニウムで覆われたファサードが建っています。開いた本のように垂直に配置されたサンシェードが、ファサードの大きな開口部の上にバランスよく配置されています
要求室を垂直に積み重ねたプランは、最小限の動線・施工の簡易化・開放的な空間利用といった機能的な利点を実現するだけでなく、比喩的な利点ももたらします。古典的な「塔」のイメージが知のかたまりとして、この図書館を印象づけています
外部空間との関係性においても、隣接する公園からのアクセスを可能にした上で、標高差を解消しており、既存の特徴を活かして存在感を高めています。また、高い天井とアメリカ人アーティスト、ピーター・ハリーの壁紙で装飾された内部の静かで集中した雰囲気が、外部とも連携しています
ホセ・イエロ公立図書館 – Biblioteca Pública José Hierro 公式HP
所在地 Av. de Rafaela Ybarra, 43, Usera, 28026 Madrid 📍MAP
最寄り駅 Usera y Plaza Elíptica L6(地下鉄)
まとめ
いかがでしたか?現代スペイン建築家たちが、過去の建築美やデザインを意識的に取り入れながら、彼らの哲学や思索を反映しています。意匠と構造を通じて時間を超越した調和が達成されていることが伝わっていたら幸いです
スペイン旅行の際には、間近でスペイン建築に浸り、巨匠たちの哲学を感じてみてください。日本でもラゾーナ川崎プラザや東京銀座資生堂ビルなど、現代スペイン建築家の作品を目にすることができます(近いうちに日本で見られるスペイン建築をまとめた記事もアップします!)
それでは、よい旅を~☻

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